SentinelOneの自律型AIセキュリティは本当にAIなのか?
📉 最近のグローバルなセキュリティソリューション市場では、「AIベースの自律型セキュリティ」という表現が流行しています。SentinelOneも例外ではありません。しかし、果たしてSentinelOneが言う「AI」は、私たちが考えるAIと同じなのでしょうか?
結論から言えば、SentinelOneが主張する自律型AIセキュリティは、技術的には実際のAIというよりも「高度なルールベース自動化と従来のML検知技術の組み合わせ」に近いと言えます。
1. SentinelOneの「AI」の実際の技術構造
SentinelOneが提示するAIベースの自律対応は、一般的なChatGPTのようなLLM(大規模言語モデル)とはまったく異なる技術構造を持っています。主に3つに分類されます:
🔍 (1) 行動ベース分析(Behavioral AI)
- プロセスの生成、ファイルアクセス、ネットワーク通信といった行動シーケンスをモニタリングし、異常を検知します。
- 例えば、
powershell.exe
が暗号化文字列や難読化されたコマンドを実行した場合、疑わしい行動として検出します。
🧠 (2) 従来型の機械学習(ML)モデル
- マルウェアの静的特徴や実行トレースを基に、事前学習されたMLモデルで悪性かどうかを分類します。
- 静的分析と動的分析の両方を併用して判定します。
⚙️ (3) ルールベースのポリシー自動化
- 実際には多くの検知とブロックが事前定義されたルールとポリシーに基づいて行われます。
- MITRE ATT&CKベースで事前に定義されたポリシーを自動適用する方式です。
➡️ 総合的に見て、SentinelOneの「AI」は実質的には高度化されたルールベースの自動化と従来型ML検知技術の統合体であると言えるでしょう。
2. なぜ「AI」という表現を使うのか?
マーケティング上の効果が大きいからです。
- 実際にはルールベース検知とMLモデルによる分類方式ですが、「自律型AIエージェント」という表現を使うことで、人の介入なしに自動で判断・対応するような印象を与えます。
- しかし、それは事前定義された条件の範囲内でのみ動作するものであり、新たな脅威に対して柔軟な判断や創造的な対応は不可能です。
3. ChatGPTとの比較分析
項目 | SentinelOneの「AI」 | ChatGPT(LLM) |
---|---|---|
分析方式 | 行動ベースの検知とルール自動化 | 文脈およびコンテキストベースの自然言語推論 |
対応範囲 | 事前定義された脅威パターン中心 | 新たな状況に対する柔軟な解釈が可能 |
学習構造 | セキュリティデータセットベースのML | 汎用的な言語・知識ベースの超大規模モデル |
自律性 | 限定的(定義範囲内の自動化) | 高い(文脈の解釈および判断が可能) |
📌 PLURA-XDRは、LLMベースのログ解析技術を実戦の検知に応用することで、
従来セキュリティ製品のコンテキスト解析の限界を克服しています。
➡️ SentinelOneのAIは、実質的な自律性や判断能力には限界があります。実際のセキュリティ分析において、ログのコンテキスト理解や脅威判断では、むしろChatGPTのようなLLMの方が効果的な場合が多いのです。
4. ⚙️ リソース使用量と実運用環境における構造的な限界
SentinelOneは公式資料において「エージェントが非常に少ないリソースしか使用しない」点を主な利点として強調しています。
しかしこの説明は、技術的に見れば AIベースの行動分析ではなく、シグネチャベースあるいは限定的なローカルルールに基づく検知に近い ことの証左とも言えます。
SentinelOneはエージェント内部にオンデバイスAIモデルが存在すると主張していますが、
これは一般的に CPU使用率が1〜5%程度の軽量な検知モデル であり、
疑わしい動作が発生したときにのみ部分的に有効化され、ほとんどの時間は実質的な分析を行っていません。
つまり、これは以下のような技術的限界を内包しています:
- ログ全体やシステム全体のフローを常時分析せず
- 任意に選ばれた一部のイベントのみを対象に判断 し
- 多くの正常〜異常の遷移パターンを見逃す可能性があります
「ほとんどリソースを使わないAI」は、本当にAIと言えるのでしょうか?
こうした構造的制約は単なる理論ではなく、実運用においても顕在化しています。
実際にSentinelOneが導入されている企業環境でも:
- サプライチェーン攻撃の検知失敗
- ゼロデイ攻撃後の潜伏活動の検出失敗
- ランサムウェア感染後の自動対応の不備
といった事故が継続的に発生しており、
これは当該製品の「AI検知能力」が
実際の運用環境における複雑性と多様な脅威に対応できていないことを示す事例です。
結論として、低リソース使用は利点ではなく検知能力とのトレードオフである可能性があり、
実際のセキュリティ環境では 軽量化よりも信頼性の高い分析範囲と構造的カバレッジ の方が重要であることを強調します。
5. 実運用における現実
SentinelOneの主張通り、完全自律型エージェントがネットワーク接続なしであらゆる攻撃を検知・対応できるのであれば、
セキュリティ問題の多くはすでに解決されていたはずです。
しかし実際の事例は異なります。
- ゼロデイ攻撃、サプライチェーン侵害、ランサムウェア感染などの事故は、SentinelOneが導入されている環境でも継続的に発生しています。
- これはSentinelOneの「AI」がマーケティング的に誇張されており、現実的な対応力には限界があることを裏付けています。
➡️ 実際にセキュリティログをLLMベースのシステムに適用することで、より効果的な検知と文脈的な分析結果が得られます。
6. 結論および代替案の提示
✅ 要約: SentinelOneの「AI」は自動化された検知システムですが、
✅ PLURA-XDRは実際の文脈に基づく判断が可能な 国産AIセキュリティプラットフォーム です。
SentinelOneが語る「自律型AI」は、実際には 定義済みの検知ポリシーと従来型の機械学習による自動化システムの組み合わせです。
- LLMベースの自律的推論のような高度な判断能力はなく、 柔軟性や文脈的解釈の点では明確な限界があります。
- したがって、「AIベースのセキュリティ」という表現に惑わされず、どのようなデータに基づき、どのように脅威を判断しているのかを精査する必要があります。
このような観点から、PLURA-XDRのように実際にLLMベースでログの文脈的解釈と脅威判断を提供するプラットフォームの導入を検討する価値があります。
SentinelOne機能検証 – 実戦事例に基づく分析
以下は、SentinelOneが主張する主要機能について、
実際の実装方式や現場での対応限界に関する公式文書、セキュリティ分析レポート、CVEに基づいた技術的検証です。
✅ Q1‑1) 「自律AI」の実態
SentinelOne Admin Guide v23.4(p.42)によると、
エージェントには 2,314個のルールツリー(行動検知ルール)が事前に搭載されています。
これは、オンデバイスの自律AIという主張とは裏腹に、ルール・シグネチャベースの検知構造に近い ことを意味します。
🔍 結論: SentinelOneは「自律型AI」と紹介していますが、静的ルールベース + 機械学習のハイブリッド構造であることが公式文書から確認できます。
✅ Q1‑2) カーネル・ローカル回避(BYOI/BYOVD)に関する脆弱性
SentinelOneの エージェントローカルアップグレードプロセス は msiexec.exe
経由で行われます。
この際、CVE‑2024‑38014(Windows Installer特権昇格)のパッチが適用されていない場合、
SYSTEM権限の奪取 → EDRの保護を回避できることが確認されています。
出典 | 主な内容 |
---|---|
CVE‑2024‑38014 | msiexec.exe の「Repair」機能を悪用し、SYSTEM権限を奪取可能(CVE詳細) |
Sekoia Rule Catalog | SentinelOne環境において msiexec.exe 経由での権限昇格可能性に関する検知ルールあり(Sekoia CTI Threat Detection Reference) |
Aon CyberLabs分析レポート | BabukランサムウェアがSentinelOneのアンチタンパー機能を回避して実行された事例。EventID 1・93にて痕跡を確認(公式発表要約抜粋 / リンク非公開) |
🔍 結論: SentinelOneは「オンデバイスの自律保護」を主張していますが、
署名付きドライバの悪用(BYOVD) や ローカルアップグレード手順(BYOI) による回避の可能性が
実際のCVEと侵害事例を通じて確認されています。
✅ Q1‑3) MOVEitサプライチェーン侵害における検知限界
SentinelOneは自社ブログで、MOVEit Transfer(CVE‑2023‑34362) の分析において以下のように述べています:
「EDRツールでは後段の活動(later-stage activity)に限って検知の機会がある…
ペイロードが実行時に動的コンパイルされるため、ハッシュベースの検知は意味をなさない。」
(出典:SentinelOne MOVEit分析ブログ、現在は非公開)
さらに、米国CISAの通知(2024年11月)では、MOVEit関連の侵害対応について
EDR単体では検知が難しく、WAFおよびログ分析との併用が必要である と明記されています。
分析項目 | SentinelOneの見解 | 実際の結果 |
---|---|---|
公式見解 | 「EDRによる検知は限定的、手動のハンティングクエリを提供」 | 運用チームによる手動分析が前提 |
CISAレポート | 「Web層の脆弱性 → EDR単体での検知には限界」 | サプライチェーン侵害が継続、検知失敗が多発 |
🔍 結論: SentinelOne自身もEDRの限界を認めており、
これは Web・ホスト・ユーザーログを統合的に分析するXDRベースの構造 の必要性を示す代表的なケースです。